結論

稟議は「なぜ今、この作業に、この機種を、この金額で入れるのか」を、数字と根拠で示す書類です。通りやすい稟議には、次の3つの共通点があります。

  1. 本体だけでなく、保守・開発・安全対策・教育を含めた総額で書いている
  2. 効果を、PoC(本格導入の前の試験導入)か現状の作業記録で測った数字で示している
  3. 安全・セキュリティ・保守・雇用への懸念に、先回りして答えている

いきなり本導入の稟議を上げるより、まずレンタルか PoC の稟議を通し、その結果で本導入の稟議を書くほうが、判断する側も決めやすくなります。

稟議書に書く項目

項目書くこと
目的・背景解決したい課題(人手不足・作業負担など)を、現状の作業時間・人数で示す
対象業務どの作業の、どの部分をロボットに任せるか。人が引き続き行う作業も書く
機種と選定理由2〜3機種を比べた結果と、選んだ理由(用途・環境・開発体制・国内の保守窓口)
費用総額の内訳と、支払い方法(購入・リース・レンタル)
効果削減できる作業時間、投資回収の見込み、数字にしにくい効果
リスクと対策安全・セキュリティ・保守、止まったときの代わりの手段
体制運用担当者・技術担当・管理責任者
日程発注、納品(取り寄せで2〜3か月と表示する販売店が複数あります)、設置・教育、評価の時期
判断の基準本導入・追加導入・中止を、どの数字で決めるか

投資対効果の考え方

金額は自社の数字を入れて計算します。ここでは式の形だけを示します。

1. 年間の効果

年間の効果 = 対象作業の時間(時間/日)× 稼働日数(日/年)× 時間あたり人件費 × ロボットが担える割合

  • ロボットが担える割合は、PoC で測った成功率から、人が手直し・介入した時間を差し引いて決めます。カタログの性能ではなく実測の値を使うことが、説得力の源です。
  • 時間あたり人件費は、給与だけでなく、社会保険料など会社が負担する分を含めて計算します。

2. 稼働率と必要な台数

稼働率 = 実際に作業できた時間 ÷ 計画した稼働時間

必要な台数 = 任せたい作業時間(時間/日)÷(1台の計画稼働時間 × 稼働率)

稼働率は、充電・バッテリー交換・調整・故障で止まった時間で下がります。メーカー公表の稼働時間は、Unitree G1 が約2時間、H2 が約3時間、四足歩行の B2 が4〜6時間などで、歩く量や持つ物の重さで短くなります。予備バッテリーの本数で稼働率がどう変わるかは、運用・保守ガイドで説明しています。

3. 総費用と回収年数

初期費用 = 本体 + 税・送料・関税 + 開発・カスタマイズ + 安全対策 + ネットワーク整備 + 教育

年間の運用費 = 保守 + 消耗品・電気代 + 運用担当者の工数

投資回収年数 =(初期費用 − 補助金)÷(年間の効果 − 年間の運用費)

費用の内訳と見積書の読み方は、費用・価格ガイドにまとめています。

補助金を入れるときの注意

  • 補助金は、交付が決まって初めて確定します。稟議では「補助金なし」と「補助金あり」の2通りで回収年数を示します。
  • 交付決定の前に発注すると対象外になる制度が一般的です。納期と公募の時期を合わせます。
  • 中小企業省力化投資補助金の一般型は、補助率(中小企業は1/2、小規模事業者などは2/3)が決まっているほか、労働生産性と賃上げの基本要件があります。稟議の効果の試算と、申請する事業計画の数字を揃えておくと、二度手間になりません。詳しくは補助金ガイドを参照してください。

数字にしにくい効果

投資回収の計算とは分けて、別の欄に書きます。

  • 危険な作業・重い物を扱う作業から人を外せる
  • 実機の運用で得たデータと知見が社内に残る
  • 展示・PR など社外への発信に使える

経営層のよくある反論と答え方

「安全は大丈夫か」

労働安全衛生規則の第150条の4は、産業用ロボットに触れて危険が生じるおそれがあるとき、柵や囲いを設けるよう求めています。厚生労働省は対象を定格出力80W超の産業用ロボットと説明し、リスクアセスメント(危険の洗い出しと評価)で危険がなくなったと評価できれば協働作業ができるとしています。ヒューマノイドが「産業用ロボット」に当たるかは機種と使い方で変わるので、販売会社と所轄の労働基準監督署に確認した結果を書きます。考え方は安全基準・法規制・保険のガイドにまとめています。

「セキュリティは大丈夫か」

2025年から2026年にかけて、Unitree の複数機種で脆弱性(悪用されうる弱点)が報告されています。この事実は隠さずに書き、そのうえで対策を示します。基本は、社内ネットワークから分ける、ファームウェアを最新に保つ、使わない無線・クラウド機能を止める、ログを取る、契約で通知義務を定める、の5つです。情報システム部門の確認は、稟議の前に取っておきます。詳しくはセキュリティ・ガバナンスガイドを参照してください。

「壊れたら誰が直すのか」

修理の窓口、保証期間、止まった間の代わりの手段を書きます。保証期間は機種とモデルで違い、Unitree G1 は標準モデル8か月・EDU 版18か月、H2 は標準モデル8か月・EDU 版12か月、Booster K1 は Geek 3か月・Edu と Pro が1年です。Unitree の規約では、許可なく改造・分解すると保証が無効になり、保証期間外の修理は有償です。UBTECH Walker S2 のように、国内の代理店が全国のオンサイト保守を案内している機種もあります。窓口の比べ方は国内購入・サポート体制ガイドで説明しています。

「雇用はどうなるのか」

ロボットに任せるのは作業の一部で、人が引き続き行う作業を明記します。計画の段階から現場の担当者を入れ、「重い・危険な作業をロボットに、見守りと例外の対応を人に」という配置の案を添えると、現場の反発を抑えられます。

「まだ早いのではないか」

2026年時点のヒューマノイドは「決まった作業を、決まった場所で、人が見守りながら」行う段階です。だからこそ、大きく買わずにレンタルや PoC で小さく始め、基準を満たしたら広げる段階的な計画にします。人型である必要がない作業なら、四足歩行ロボットや搬送ロボットも候補です(機種タイプの選び方、3分で導入適性診断)。

段階的な稟議の組み立て

段階目的次へ進む条件
1. レンタル・デモ社内の理解と、用途の当たりをつける試す作業と KPI(評価の指標)が決まった
2. PoC自社の作業で使えるかを数字で確かめる事前に決めた基準を満たした
3. 本導入台数を決めて運用に入る運用後も同じ KPI を測り続ける

段階1・2の進め方はレンタル・リース・PoC の進め方で説明しています。

添付する資料

稟議書の雛形と投資対効果の資料テンプレートは、資料ダウンロードのページで準備しています。

関連ページ

稟議に使う見積もりの取り方や、PoC の設計について相談したい方は、無料の導入相談をご利用ください。用途や台数が固まっていない段階でも受け付けています。