結論

ロボット基盤モデルは、大量のデータで学習し、さまざまな作業に応用できるロボット向けの AI モデルです。作業ごとに人がプログラムを書く代わりに、学習したモデルが状況に合わせて動きを生み出すことを狙っています。

導入を検討する企業がこの記事で判断できるのは、次の2点です。

  • 今すぐ基盤モデルに頼る段階か。 2026年時点では、国の開発事業が始まったばかりで、現場で使うには自社のデータでの調整が前提です。定型作業は今の機能で始め、基盤モデルは「育てる準備」をする段階です。
  • 今から何を準備するか。 自社の作業の記録(データ)と、モデルを載せ替え・調整できる機種(二次開発に対応した構成)の2つです。

基盤モデル・VLA・ロボット基盤モデルの関係

似た言葉が多いので、範囲の広い順に並べます。

言葉意味
基盤モデル大量のデータで学習し、さまざまな作業に応用できる AI モデル
マルチモーダル基盤モデル経済産業省の注釈では「言語に留まらず、音声・画像・動画・センサーデータ等、多様なデータを扱うことが可能となるAIモデルのこと」
ロボット基盤モデル基盤モデルのうち、ロボットの体の動きを生み出すもの
VLA モデル映像(Vision)と言葉(Language)から動作(Action)を直接出力する形のロボット基盤モデル

VLA という呼び名は、2023年7月に公開された論文「RT-2」が、このようなモデルの分類を vision-language-action models と呼んだことで広まりました。VLA の仕組みそのものは「VLAモデルとは」で解説しています。この記事では、モデルを「どう学習させるか」と「導入する側が何を準備するか」に絞ります。

学習の仕組み:データをどこから集めるか

ロボット基盤モデルの性能は、どんなデータで学習したかで決まります。データの集め方は主に4つあり、組み合わせて使います。

集め方中身主な学習の方法得意・不得意
遠隔操作(テレオペ)人がロボットを遠隔操作して作業し、映像と関節の動きを記録する模倣学習実機の正確なデータが取れる。1件ごとに人の時間がかかる
シミュレーション仮想空間でロボットを繰り返し動かす強化学習大量に試せる。実機との差(物の滑りやすさ・重さなど)が課題
人の作業の記録作業者の目線のカメラ映像などを集める模倣学習の下地ロボットがいなくても集められる。ロボットの体への置き換えが要る
実機の運用ログ現場で動かしたときの成功・失敗の記録追加学習自社の現場に合う。量が集まるまで時間がかかる

それぞれの学習方法は次のとおりです。

  • 模倣学習: 人が実際に動かした例を真似させる学習です。遠隔操作で集めたデータが中心になります。
  • 強化学習: 試行錯誤の結果に報酬を与え、うまくいく動きを強める学習です。歩行の安定化などに使われます。
  • Sim2Real: シミュレーションで学習した動きを実機に移すことです。仮想空間と現実の差を埋める工夫が要ります。

実際のプロジェクトでも組み合わせが使われています。KDDI の GENIAC 事業では、店舗スタッフが AI グラスを着けて作業者目線のデータを集め、それを教師データにしてデジタルツイン(現実の店舗を写した仮想空間)上でシミュレーションデータも自動生成する計画です(事例解説)。

また、現場の実装は「すべてを1つのモデルで」とは限りません。Orboh とトヨタ車体研究所の農場の実証では、オクラの検出に追加学習した画像認識、腕の動きに従来の計算方法(逆運動学)を使い、最後の細かい位置合わせだけを学習した制御(Diffusion Policy)に任せています(事例解説)。学習したモデルと従来の方法を、作業の段階ごとに使い分けるのが現実的です。

学習の段階:大きく学んで、現場で合わせる

  1. 事前学習: 開発者が大量の汎用データでモデルを作ります。
  2. 追加学習(調整): 自社の作業・物・環境のデータで、モデルを自社向けに合わせます。
  3. 評価: 成功率・作業時間・人の介入の回数を測り、使える範囲を決めます。

導入する企業が関わるのは、主に2と3です。事前学習済みのモデルがあっても、自社の現場のデータで調整と評価をしなければ、狙った作業で使えるかは分かりません。

国の動き

  • マルチモーダル基盤モデル開発事業: 経済産業省と NEDO が2026年6月30日に開始を発表しました。Noetra株式会社と産総研が採択され、事業期間は2026〜2030年度です。発表文は、現場データを守りながら将来も安心して活用できる国産モデルの必要性を挙げています。
  • GENIAC のロボット基盤モデル開発: 2026年5月14日に2件の採択が発表されました(助成、2026〜2029年度のうち最大3年間)。対象は自動運転車・ドローン・自動運航船など、公共インフラを使う機械システムを直接制御するモデルです。

政策の全体像は「日本のフィジカルAI政策まとめ」にまとめています。

導入企業が今できること

1. 自社の作業を記録しておく

  • 任せたい作業を一つ決め、手順・所要時間・失敗の例を書き出す
  • 作業の様子を動画で残す(撮影の範囲と保存先は社内ルールに沿って決める)
  • 扱う物の種類・重さ・置き場所を一覧にする

この記録は、PoC(試験導入)の評価基準にも、将来のモデルの調整にも使えます。

2. データの扱いを先に決める

現場のデータは自社の資産です。誰が保存し、誰が使えて、販売会社や開発パートナーに渡す範囲はどこまでかを、契約の前に決めます。ロボット自体がどこへ何を送っているかの確認も欠かせません(セキュリティ・ガバナンスガイド)。

3. 二次開発に対応した構成を選ぶ

モデルを載せ替えたり、自社のデータで調整したりするには、自社でプログラムを書いて動かせる構成(二次開発に対応した構成)が要ります。図鑑に載せた主な機種の対応状況は次のとおりです。

機種二次開発への対応(図鑑の記載)
Unitree G1標準モデルは非対応。EDU 版のみ対応
Unitree H2標準モデルは非対応。EDU 版のみ対応
Unitree H2 Plus対応(公式仕様表で Secondary Development:YES)
Unitree Go2対応。対応範囲はモデルにより、EDU が最も広い
Unitree As2X・EDU は対応。AIR・PRO は非対応
Booster K1Edu・Pro はメーカーの二次開発サポートあり。Geek はなし

二次開発に対応した構成は、標準モデルと価格が大きく違うことがあり、Unitree の EDU 版は「要問い合わせ」です(費用・価格ガイド)。開発環境の具体的な中身は「Unitree の開発環境ガイド」をご覧ください。

4. 小さく試して測る

最初の PoC は、作業を一つに絞り、成功率・時間・介入回数を測ります。基盤モデルが成熟しても、自社の現場で測った数字がなければ導入の判断はできません。

次に読む

自社の作業がロボットに向くか、標準モデルで足りるか二次開発が要るかは、3分の導入適性診断で目安をつけられます。データ収集を含めた PoC の設計は、レンタル・PoC の相談でも受け付けています。