結論

日本のフィジカルAI政策は、「どの分野から先に入れるか」「どれだけの投資を見込むか」「誰がロボット向けの AI モデルを作るか」の3点で押さえると整理できます。

  • 分野: 政府の AIロボティクス戦略は、製造・物流・建設/土木・建築・小売・警備の6領域を「先行的に社会実装を進める分野」としています(2026年7月15日の国会答弁)。
  • 投資: 経済財政諮問会議の資料は、フィジカルAI(特にAIロボット)の官民投資額を、2040年度までで10.5兆円と想定しています。
  • AI モデル: 経済産業省と NEDO が、国産のマルチモーダル基盤モデルの開発事業(2026〜2030年度)と、GENIAC でのロボット基盤モデル開発の支援を始めています。

どれも「ロボットの購入費を補助する制度」ではありません。企業は、稟議書で「国が後押しする分野か」を説明する根拠として使い、購入費は省力化投資補助金などの制度で別に検討する、という使い分けになります。

人工知能基本計画

内閣府の「人工知能基本計画」のページには、2026年(令和8年)7月14日に閣議決定された計画が現行の計画として、2025年(令和7年)12月23日に閣議決定された計画が過去の計画として載っています。ページに「初版」「第Ⅱ期」のような版の呼び名はありません。

本文は同じページから PDF で読めます。本記事では本文の中身を引用していません。稟議書や社内資料で引用するときは、使う箇所を本文で確かめ、閣議決定の日付を添えてください。

官民投資額の想定:フィジカルAIは2040年度までで10.5兆円

2026年6月24日の経済財政諮問会議に出された資料1「戦略17分野の『主要な製品・技術等』における官民投資額」は、戦略17分野にある62の「主要な製品・技術等」ごとに、主として2040年度までの官民合計の投資額を、現時点での想定規模として示しています。

  • AI・半導体分野の「①フィジカルAI(特にAIロボット)」は、2040年度までで10.5兆円
  • 全体の合計は、2040年度までの累計で370兆円超(想定)
  • 資料は「数字が現時点で明確でないものも含め、今後さらに精緻化していく」としている

10.5兆円は、国と民間を合わせた投資額の想定です。国の補助金の総額でも、市場規模の予測でもありません。社内資料では「官民投資額の想定規模」と書くのが正確です。

先行6領域

政府の AIロボティクス戦略は、次の6領域を「先行的に社会実装を進める分野」と位置づけています(2026年7月15日、衆議院内閣委員会での小野田紀美 内閣府特命担当大臣の答弁)。業界ごとの課題と向く機種は、各ページにまとめています。

領域業界別ページ
製造製造での AIロボット導入
物流物流・倉庫での AIロボット導入
建設・土木建設・土木での AIロボット導入
建築建築での AIロボット導入
小売小売での AIロボット導入
警備警備での AIロボット導入

6領域に入らない業界(点検・農業・医療・介護など)でも導入はできます。違いは、稟議書で「国が先行的に実装を進める分野」と書けるかどうかです。

経済産業省・NEDO の基盤モデル事業

基盤モデルとは、大量のデータで学習し、さまざまな作業に応用できる AI モデルのことです。ロボット向けの基盤モデルの仕組みは「ロボット基盤モデルとは」で解説しています。

マルチモーダル基盤モデル開発事業(2026〜2030年度)

経済産業省は2026年6月30日、「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」を始めると発表しました(NEDO と同時発表)。

  • 採択: NEDO の公募(2026年3月24日〜4月22日)で、Noetra株式会社と産業技術総合研究所(産総研)が採択されました。
  • 役割: Noetra は、日本のモデル開発・利活用事業者のニーズを踏まえて、国際的に競争力のあるマルチモーダル基盤モデルを開発・提供します。産総研は国内外の研究機関と連携して、先進的な技術開発を行います。
  • 期間: 2026年度〜2030年度
  • 背景: 発表文は、現場データを守りながら将来も安心して活用できる国産のマルチモーダル基盤モデルが必要なこと、AI 利用の省電力化が重要なことを挙げています。

マルチモーダル基盤モデルとは、経済産業省の注釈によれば「言語に留まらず、音声・画像・動画・センサーデータ等、多様なデータを扱うことが可能となるAIモデルのこと」です。

GENIAC のロボット基盤モデル(2026年5月採択)

GENIAC(Generative AI Accelerator Challenge)は、経済産業省と NEDO が2024年2月から行っている、生成AIの開発力を強化するプロジェクトです。2026年5月14日、2026年度からの新しい事業として、次の2つの採択が発表されました。

テーマ支援の形件数事業期間
製造業データ等の AI-Ready 化(AI が学習・活用しやすい形にデータを整えること)委託9件2026〜2027年度のうち1年間
ロボット基盤モデル開発助成2件2026〜2029年度のうち最大3年間

ロボット基盤モデルの対象は、「公道、航路等の公共インフラを利用する自動運転車、ドローン・無人航空機、自動運航船等の機械システムを直接制御するロボット基盤モデル開発」です。工場や倉庫のヒューマノイドを直接の対象にしたテーマではありません。採択された事業者の名前は、この発表ページには載っていません。

発表の背景では、AIロボティクスを、人口減少・少子高齢化に伴う構造的な人手不足への対応や、経済安全保障上の自律性・不可欠性の確保にも貢献する戦略領域と位置づけています。

これとは別に、KDDI は2026年9月9日、「小売物流業等の現場業務を代替するロボット基盤モデルの研究開発」が GENIAC に採択されたと発表しています。店舗でデータを集めてロボット制御を実証する計画で、内容は「KDDI×ローソン、店舗でロボット基盤モデルの実証」で整理しています。

企業にとっての意味

稟議書の「背景」に使う

政策は、導入の必要性を説明する「背景」の根拠になります。たとえば次のように書けます。

当社の物流業務は、政府の AIロボティクス戦略が「先行的に社会実装を進める分野」とする6領域の一つに当たる(2026年7月15日 衆議院内閣委員会、内閣府特命担当大臣の答弁)。また、経済財政諮問会議の資料(2026年6月24日)は、フィジカルAI(特にAIロボット)の官民投資額を2040年度までで10.5兆円と想定している。

書くときの注意は3つです。

  • 資料名と日付を必ず添える(決裁者が自分で確かめられるように)
  • 10.5兆円は「想定規模」と書き、補助金や市場規模と混同しない
  • 自社にとっての効果は、政策ではなく自社の PoC(試験導入)で測った数字で示す(導入ステップガイド)

購入費の補助は別の制度で探す

ここで紹介した政策と事業は、ロボットを買う企業の購入費を補助するものではありません。マルチモーダル基盤モデルの事業と GENIAC は、AI モデルを開発する事業者を支える事業です。

購入費の補助では、中小企業省力化投資補助金の一般型が中心になります。カタログから製品を選ぶ「カタログ注文型」にはヒューマノイドの区分がありません(2026年10月8日版)。一般型は「IoT・ロボット等の人手不足解消に効果がある」設備が対象で、使えるかどうかは事業計画しだいです。詳しくは補助金ガイドと製品カタログ更新のニュースをご覧ください。自社でロボットの研究開発を行う企業は、NEDO の公募ページで募集中の事業を確かめられます。

基盤モデルの成熟を待たず、定型作業から始める

国産のマルチモーダル基盤モデルの事業は2030年度まで続きます。今買う機体は、今の機能で評価するのが基本です。搬送・巡回・点検などの定型作業から始め、現場のデータを集めておくと、基盤モデルが使えるようになったときに有利になります。何を準備するかは「ロボット基盤モデルとは」にまとめています。

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